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基本ネタバレ注意

8年前、そして今のガザ地区を思う『ガザ・サーフ・クラブ』

この映画を見るまで、現在イスラエルから攻撃を受けているパレスチナガザ地区が、イスラエルによって長年封鎖されてきたということを知らなかった。『ガザ・サーフ・クラブ』は、サーフボードの輸入すらままならないガザの海岸でサーフィンに興じる人々を映したドキュメンタリーだ。

フォーカスされる人物は主に3人。ガザのサーフィン文化をさらに盛り上げようとサーフショップの開店を目指している23歳のイブラヒームは、NPOで青少年支援をしているマシューの協力を得て、サーフボード製作技術を学ぶためハワイへ渡航する夢を叶える。42歳の漁師・アブーは「ガザ・サーフ・クラブ」の最年長で、若者たちにサーフィンを教えているが、一生のうちに自分が海外へ行ける日は訪れないのではないかと考えているようだ。

15歳の少女サバーフは、幼い頃に父親に連れられてサーフィンに行くのが好きだったが、成長して髪や肌を外で晒すことが難しくなり、サーフィンができなくなってしまった。目立つことが大好きな彼女は父の協力を得て沖までボートを出してもらい、スカーフを脱いで久しぶりにボードの上に立つ。抑圧されたガザ地区で、女性として二重の抑圧を受けるサバーフのささやかな抵抗を感じさせるシーンだ。陸に戻ったサバーフは年下の女子学生たちの称賛を一身に浴びる。

サバーフの描写を入れることで、このドキュメンタリーはより多面的な視点を確保しているように思った。ただでさえスポーツの世界は男性中心的/男性優位な状態になりやすい。そこから疎外された女性を捉えて、苦しい状況の中でもサーフィンを続けられる男性たちと対比させるのは、自由と平和を求める政治活動の中で女性の立場を取りこぼさず、余すことなく連帯しようという意思の表れなのではないか。

映画の製作は2016年だ。8年後の今、ガザ地区で起きている惨劇を受けて、日本で再上映が行われた。私が鑑賞した回では『ぼくの村は壁で囲まれた―パレスチナに生きる子どもたち』の著者であるノンフィクションライターの高橋真樹さんによるトークショーがあったが、司会進行を務めた配給会社の担当者のシリアスな表情が印象的だった。ここで話されていることは、今この時起こっている「喫緊の問題」なのだという実感が沸く。

トークショーの中で、映画に出てくる漁師のアブーは現在行方不明になっていると説明された。海を越えて遠くで起きているジェノサイドに、自分がどうやって関わることができるのか、考え始めると途方に暮れてしまうけれど、まずは知ること、そして知っている人を増やすことから始めていけるのかもしれない。これから、この映画に登場したサーファーたちの顔を、そして境遇を脳裏に思い返しながら、パレスチナに連帯することが私にはできるのだと思った。